食と健康

乳製品は本当に悪?私たち消費者ができること

「乳製品は悪だ」「体に毒だ」「牛乳は仔牛が飲むものであり、人間が飲むべきではない」

最近こんな意見をあちこちで耳にします。

乳製品って、本当に悪者なのでしょうか?

結論から言うと、「乳製品は悪ではない。だけど、自分に合った量だけを感謝していただくことが大事」というのが私個人の意見です。

今日は牛乳や乳製品に対する私の想いをシェアしようと思います。

牛乳の歴史

日本で牛乳が庶民に飲まれるようになったのは、明治時代のこと。初めは貴族たちの薬や栄養剤として利用されていました。

第二次世界大戦後は、敗戦によりお米がそれまで供給していた国から入ってこず、大凶作にも見舞われた日本。当時の日本人の食事の9割が芋類と穀類だった為、その栄養状態は極めて低いものでした。(※1)

そこで栄養不足を救った食品の一つとなったのが牛乳です。飢餓や餓死と隣り合わせだった日本国民にとって、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよく含んだ牛乳は、理想的な栄養食品でした。

そうして少しずつ日本人の栄養が改善され、牛乳が新しい国民食糧として食生活に浸透していったのです。その後、バターやチーズといった乳製品の消費も急速に伸びていきました。

乳製品が悪いと言われるようになった理由

では、なぜ乳製品が悪いと言われるようになったのでしょうか?よく言われる要因として、以下のものが挙げられます。

  • 乳糖不耐の問題
  • カゼイン不耐の問題
  • 飽和脂肪酸が多く心臓血管病の原因になる
  • 骨を弱くする
  • ホルモンが癌の原因になる
  • アニマルウェルフェア(動物愛護)問題
  • 環境問題

①乳糖不耐の問題

乳糖不耐症は、乳製品に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する酵素が欠損することによって起こります。乳糖が小腸で上手く分解されず大腸まで流れ、腸が刺激されて膨満感、腹痛、下痢といった症状を引き起こします。世界人口の約6割、日本人の約8割がこの乳糖不耐症と言われています。

乳製品を摂るとお腹がゴロゴロすると言う方は、腸内環境を整える、摂取量を減らす、無乳糖・低乳糖の製品を利用するなどで対策ができます。

②カゼイン不耐の問題

牛乳にはホエイとカゼインという2つのたんぱく質が含まれます。牛乳のたんぱく質の約80%を占めるのがカゼインで、カゼインはホエイに比べ消化に時間がかかる為、摂りすぎると消化器官に負担をかける恐れがあります。(※2)

もう少し詳しく言うと、カゼインは大きく3種類 α-casein(アルファカゼイン)、β-casein (ベータカゼイン)、κ-casein (カッパーカゼイン)に分類されます。この中で人が消化しやすいのはβカゼインで、人の母乳に多く含まれるのもβカゼインです。牛乳のカゼインの多くはαカゼインであるため、多量に摂取してしまうと腸の炎症を招き、下痢・便秘・膨満感・肌荒れ・疲労感などに繋がるとされています。また、αカゼインはアレルギーの原因になるとも言われています。

とはいえ、牛乳のたんぱく質は筋肉や体づくりにとって重要なアミノ酸を豊富に含んでいます。ゆっくり消化されるカゼインは、血中のアミノ酸濃度を長時間維持することができるというメリットもあります。他のたんぱく質と同様、適量の摂取であれば問題はありません。

③飽和脂肪酸が多く心臓血管病の原因になる

肉や乳製品などの動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸は、摂りすぎると血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値を上昇させ、心筋梗塞や動脈硬化といった心臓血管病のリスクが増加すると言われています。

しかし、最近の研究やメタ分析は、乳製品の優れた栄養素のバイオアベイラビリティ(体内で効率的に吸収・利用されること)や抗炎症性に基づいた、全脂肪乳製品の有益性を示しています。飽和脂肪酸の適量の摂取は、心血管の健康にプラスまたは中立の効果をもたらすことがわかってきているのです。(※3)

また、脂質は体にとって重要なエネルギー源。脂質の摂取が少なすぎると、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなったり、たんぱく質不足も引き起こします。

もし、普段の食事で乳製品や肉料理の割合が大きいという方は、和食中心や菜食の食事を心掛ければ、飽和脂肪酸の過剰摂取を抑えることができます。バランスが偏らないように、上手に脂質を取り入れることが大切です。

④骨を弱くする

牛乳はカルシウムが豊富で骨に良いと言うイメージがありますよね。ところが、牛乳を飲むと骨からカルシウムなどのミネラルが溶け出す「脱灰」が起こり、反対に骨を弱くするという説があります。

カルシウムは骨の形成に関わる重要な栄養素ですが、マグネシウムとのバランスが非常に重要で、マグネシウムが不足すると骨の中のマグネシウムと一緒にカルシウムも溶け出てしまいます。牛乳に含まれるマグネシウム量はカルシウム量の10分の1以下であることから、脱灰を起こしやすいと言われているのです。

しかし、私たちは毎日の食事でいろいろな食品から栄養素を摂取しているのであり、牛乳だけのバランスを問題にすることにはあまり意味がありません。(※4) 1日の食事の中で、マグネシウムやその他のビタミン・ミネラルなどの栄養素をバランスよく摂取していれば、脱灰の心配はまずないと言えるでしょう。

⑤ホルモンが癌の原因になる

牛乳にはエストロゲンなどの女性ホルモンが含まれています。エストロゲンは乳がん細胞の分裂・増殖に関わりがあることから、牛乳はがんの原因になることが危惧されています。しかし、牛乳に含まれる女性ホルモン量は極めて微かであり、人の体に作用する量ではないことが多くの研究でわかっています。(※5)

また、米国では乳量を増やすために成長ホルモン剤(rBST)を牛に投与することが認められていますが、日本、オーストラリア、カナダ、欧州など多くの国で投与が禁止されています。他にも、成長促進を目的に使用される肥育ホルモン剤も日本では禁止されています。(※6)国際基準においては、適正に使用される場合は人の健康への悪影響はないと判断されていますが、ホルモン剤や抗生物質等の心配がないオーガニック乳製品を選ぶなど、私たち消費者が安全なもの見極める力も必要になってきます。

⑥アニマルウェルフェア(動物福祉)問題

”乳牛は過密状態の牛舎の中で柵に繋がれ、糞や尿にまみれた中で生活している”

”子牛は母牛の初乳のみ与えられ、その後すぐに引き離されて人工乳を与えられる”

”ほとんどの乳牛が人工授精により妊娠・出産し、産後2ヶ月ほどでまた妊娠させられる”

”角や尻尾を無麻酔で切られる”

このような動物本来の自然の姿からかけ離れた生産方法が問題視されています。

これまで手に取ってきた乳製品がもしこのような環境で育った牛から作られていたら…と想像するとショックで言葉になりません。

ただ、全ての酪農家がこのような劣悪な環境で飼育しているわけではありませんし、近年、畜産におけるアニマルウェルフェアは、世界各国で様々な取り組みが進められています。日本においても、アニマルウェルフェアへの注目が急速に高まっており、家畜の健康や飼養管理が見直されています。(※7)

消費者として私たちが第一にできることは、乳牛の飼育方法や環境がわかる、信頼できる生産者から購入することだと思います。

認定NPO法人アニマルライツセンターのこちらの記事に日本の乳業メーカーの取り組みや放牧された牛から採れた牛乳を販売しているメーカーなどが載っていましたので、日本にお住まいの方は選ぶ際の参考にしてみてください。

⑦環境問題

畜産がもたらす温室効果ガスの排出量や、水・土地の過剰利用などの環境問題も深刻になっています。

Chart: Climate impact of different milk types

上のグラフはコップ一杯(200ml)あたりの牛乳、ライスミルク、豆乳、オートミルク、アーモンドミルクの環境負荷を、温室効果ガスの排出、土地の利用、水の利用で比較したものです(BBCニュース記事より抜粋)。

牛乳がどれほど多くの資源を必要とするかがわかりますね。このような背景から、植物性ミルクやヴィーガン人口も世界的に急増しています。

この環境問題においても、乳製品に限らず私たちが動物性食品を摂ることにあたって、広範囲に及ぶ課題となります。畜産が環境に影響を与えているからと、畜産業自体をなくそうとするのではなく、現状の生産システムからなるべく環境へ負荷の少ない形へ転換していくこと、これが畜産・酪農業の課題だと思います。

酪農大国オーストラリアの取り組み

持続可能な畜産、放牧・オーガニック飼育を求める消費者の需要が高まりを見せる中、私の住むオーストラリアでも様々な取り組みが行われています。

これはオーストラリアの乳業界が、SDGsなど世界の共通目標を踏まえ、掲げた4つのゴールです。2030年までの達成を目指しています。

  • Enhancing economic viability and livelihoods(経済的実行可能性と生計の向上)
  • Improving wellbeing of people(人々の幸福の向上)
  • Providing best care for all our animals(全ての動物へ最善のケアの提供)
  • Reducing environmental impact(環境に対する負荷の低減)

これらのゴールを達成するために、酪農業に関わるすべての人へ安全で価値ある労働環境を提供すること、乳牛の健康管理や抗生物質の管理を徹底すること、土地管理や水利用効率を向上させること、リサイクル、堆肥化、再利用可能な包装の使用することなど、具体的な取り組みが挙げられています。こちらのページ(英語)から詳しい取り組みや進捗状況のレポートがダウンロードできますので、ご興味のある方はご覧ください。

畜産・酪農従事者、そして消費者一人一人ができることを行動にうつしていけば、少しでも状況を変えていけると私は信じています。

結論

牛乳や乳製品に対する意見は本当に様々で、難しい問題だと感じます。

乳製品が体に合うかは人それぞれですし、どの食品にも言えることですが、摂り過ぎてしまえば、当然体に悪影響を及ぼします。

アニマルウェルフェアや環境問題の観点においても、非常に深刻な状況となっていることは確かな事実です。

誰だって動物や自然を守りたいし、環境に優しい選択をしたい。ですが、私はすべての人が乳製品を一切やめるべきとは言えないと思うのです。

なぜなら、自分や家族の健康を守ることもとても重要なことだから。

乳製品は長い間、私たちの命を繋いできてくれた大切なもの。たくさんの酪農家やその家族が、酪農業に支えられてきました。

体の細胞や組織の修復に欠かせないビタミン、ミネラル、たんぱく質などの栄養素が手軽に摂取できる点も牛乳・乳製品の大きなメリットです。

私は、乳製品を0にするか100にするか、と言うことではなく、

安全で信頼できる商品を選び、植物性ミルクや菜食も取り入れながら、必要な分だけ大切にいただくことが私たち消費者にできるベストな選択だと思います。

もちろん動物や地球環境に配慮して、乳製品を摂らない選択をするのはとても素晴らしいことだと思います。

最終的に決めるのは自分自身。現状を知り、自分が納得する選択をすれば、どの選択も間違っていないと思います。

SNSやネット上で乳製品をやめるべき、という意見に少し違和感を覚えたので、今回私なりの想いをシェアさせていただきました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<参考文献>

※1 日本乳業協会 第95回 日本人は牛乳をどう受容してきたのか

※2 Dangers of Dairy – Casein Sensitivity

※3 National Center of Biotechnology Information Dairy Fats and Cardiovascular Disease: Do We Really Need to Be Concerned?

※4 一般社団法人 Jミルク ウワサ18 牛乳は「脱灰」を促進、骨を弱くする

※5 ウワサ29 牛乳は乳がんの原因になる 2

※6 農林水産省 肥育ホルモンについて

※7 農林水産省 アニマルウェルフェアについて

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